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【IT事件簿】音楽ファイル交換、本当に悪いのは誰?


2002年11月7日

音楽のネット交換を行なっていた米ナップスター(Napster)社に対して、米連邦破産裁判所は9月3日、同社の大株主である独ベルテルスマン(Bertelsmann)社への身売りを図るという再建案を却下した。ナップスターは6月に破産し、再建策を探っていた。しかし、今回の再建案の却下で清算が確定的になった。日本の同様サービス、ファイルローグを提供していた(有)日本エム・エム・オー(MMO)は裁判が続き、サービス停止。国内では逮捕者も出ている。それでもファイル交換はなくならない。

ナップスターのウェブサイト
清算が確定的になったナップスターのウェブサイト

ナップスター消えても安心できない音楽業界

ユーザーに対して無料で音楽ファイルの交換をさせていたナップスターが事実上消滅した。ピア・トゥー・ピア(PtoP)技術を活用した音楽ファイルのネット交換は、CDを購入しなくても自由にタダで最新の音楽ファイルを入手することができ、著作権侵害に当たる。ナップスターに対して全米レコード協会(RIAA)が、ファイル交換サービスの差し止めを求めて提訴していた。

ナップスターが登場したのは1999年5月。自分のパソコンに保存している音楽ファイルのリストをナップスター側のサーバーにアップロードして、別のユーザーが保有する音楽ファイルと無料で交換できるサービスだ。交換といっているが、必ずしもこちら側が音楽ファイルを差し出す必要はなく、検索サイトを使うのと同じ手順で、ミュージシャン名などキーワードを指定して、音楽ファイルを検索し、ダウンロードする仕組みだ。ナップスター開始数日で1万人以上のユーザーを獲得し、最盛期には世界で8000万人にもユーザーが膨らんだ。音質をさほど落とさずに音楽ファイルを約10分の1のサイズに圧縮できるMP3形式が普及していたこともナップスターを後押しした。

ナップスターの急速な広がりにRIAAなど音楽業界は大きな危機感を抱いた。音楽業界から見れば、ナップスターは明らかに著作権の侵害行為を助長し、これによって本来CDを購入するユーザーが、CDを買わなくなっている、というのだ。交換して手に入れた音楽ファイルをCD-Rなどに書き込んで、普通のオーディオCDのようにしてステレオで聞くユーザーも多く、ナップスターは一部マニアだけの存在ではなくなりつつあった。

そのためRIAAは1999年12月、著作権を侵害しているとしてサービスの停止などを求めてナップスターを提訴。米連邦地裁は2000年7月にサービス停止の仮処分を決定。ナップスターは仮処分の延期を求めて連邦高裁に控訴した。音楽業界と反目していては未来がないと考えたナップスター側は、レコード会社の承諾を受けた音楽ファイルだけを有償でユーザーに交換させる、というビジネスモデルに転換。2000年10月には訴訟の原告でもあるベルテルスマンと資本提携した。

ナップスターが新しいビジネスモデルを探っている間にも訴訟は進み、2001年2月には連邦高裁がナップスターの著作権侵害を認定。審議を地裁に差し戻し、3月には地裁が改めてナップスターに対し、音楽ファイルの交換サービスの停止を命令した。7月には連邦地裁が、交換サービスで著作権侵害が1つも起こらないようにする防止措置をとるよう、ナップスターに命令。防止措置に対応することが不可能と考えたナップスターはサービスを全面的に休止した。その後、2002年にはナップスターの資金不足が深刻化。6月に破産を申請し、ベルテルスマンが吸収する方向で再建を探っていたが、米連邦破産裁判所が9月にナップスターの再建策を却下し、清算されることになった。

レコード会社のネット音楽配信は低迷

ナップスターがインターネットユーザーに“ネットの音楽ファイルはタダ”というイメージを植えつけたのは間違いない。ナップスター登場以前も、MP3をサイトなどに掲載してユーザー同士で交換することはあったが、一部のマニアに限られていた。しかもこうしたマニアの主な興味は、音楽CDから吸い出した音楽ファイルをいかに高音質でスムースにMP3に変換するかという点。しかしナップスターはファイル交換を単なるツールに徹した形で提供し、ネットでの音楽ファイル交換の便利さをユーザーに伝えた。

音楽とインターネットの相性の良さは音楽業界も十分に分かっていた。音楽業界は、ナップスターが流行するのは、レコード会社がネットで音楽を提供するサービスを十分に行なってこなかったからだと判断。日本を含むさまざまなレコード会社は、独自で音楽のネット配信サービスを2000年ごろから次々に始めた。日本の場合だと1曲あたりの価格は350円程度。

しかしこうしたレコード会社のネット配信サービスがユーザーの支持を集めているとは言いがたい。

原因はレコード会社の及び腰だ。レコード会社が一番恐れるのは、ネット配信した音楽ファイルが、購入ユーザーから別のユーザーに渡ってしまうこと。自らが著作権侵害の発端になってしまうのだ。そのためネットで配信するミュージシャンを限ったり、シングルでも新曲だけでアルバムは配信しないなど、ユーザーサイドに立ったサービスになっているとは言えない。もちろんレコード会社は、安心してネット配信をできるよう著作権を保護する電子透かし技術の開発を続けているが、著作権を完全に守って、ユーザーが便利に使えるというサービスはまだ完成されていない。

ファイルローグのウェブサイト
ファイルローグのウェブサイト。ダウンロードのリンクが見えるが、実際にはもうサービスは利用できなくなっている

ファイル交換ツールで日本で世界初の摘発

ナップスターをめぐり、米国の音楽業界が訴訟を行なっている間に、日本ではファイル交換ツールで世界で初めての摘発者が出た。問題となったツールはナップスターの仕組みを活かして、音楽ファイルだけでなく、どんなファイルでもユーザー間で交換可能にしたツール“WinMX”だった。

京都府警などは2001年11月28日、WinMXを使ってコンピューターソフトを無許可で他人に配信したなどとして、著作権法違反の疑いで、さいたま市の専門学校の男子生徒(20)と、東京都杉並区の男子大学生(19)を逮捕した。男子生徒らは自分のパソコンの保存したアプリケーションのプログラムファイルをWinMXを通じて、誰でもダウンロードできるようにしていたという。このうち男子生徒に対して京都簡裁は今年3月、罰金40万円の略式命令を出した。

WinMXはフロントコードテクノロジーズ(Frontcode Technologies)社という米の企業が配布しているツール。ユーザーは無料で利用することができ、自分が保有しているファイルを他のユーザーに公開したり、他のユーザーがパソコンに保存しているファイルを検索しダウンロードすることができる。日本語でファイルを探せることなどが受けて、現在日本で最も利用者が多いファイル交換ツールになっている。アップロードされている日本語名のファイルも膨大。有名なオフィスソフトはもちろん、その日に発売された新曲や、映画のDVDから生成した動画ファイルまであらゆるファイルがアップロードされている。ナップスターが植えつけた“音楽ファイルはタダ”という認識は“ネットのファイルはすべてタダ”に拡大していったのだ。

こうした状況に警察や業界の著作権保護団体が手をこまねいているわけではない。警察や著作権保護団体は、IPアドレスなどからWinMXを利用しているユーザーを特定するシステムを開発し、違法ユーザーの検索に利用している。昨年11月に逮捕された2人は数千のファイルをダウンロード可能な状態にしていたという。逮捕には見せしめ的な意味もあった。しかし、現在、WinMXを使っているユーザーは警察によって、単にお目こぼしされていると言っていい状態。違法行為をしていることに違いはない。ファイルをアップし過ぎるなければ大丈夫、ファイルを公開せずに他人のファイルをダウンロードしているだけなら問題ない、という根拠のない楽観論がネットには流れているが、これは間違いだ。たまたま警察が摘発しないだけ。警察が利用しているシステムが改良されて、ユーザーの特定が簡単になれば、摘発数が一挙に増えるだろう。

日本MMOの交換ツールはサービス停止に

WinMXで摘発者が出る中、ヤフー(Yahoo!)出身の松田道人社長が設立したベンチャー企業、日本MMOはカナダ企業の技術援助を受けて、ファイル交換サービス“ファイルローグ”を2001年11月にスタートさせた。ファイルローグはWinMXと同様に自分が持っているファイルを公開して、他のユーザーのファイルをダウンロードできるサービス。専用ツールをサイトからダウンロードして利用する。利用は無料で、日本MMOは将来的に広告をユーザーに配信して収入を得ることを計画していた。

しかし、ファイルローグは著作権違反行為を助長するサービスだとして、レコード会社や日本音楽著作権協会(JASRAC)が強く反発。2002年1月29日には、レコード会社19社とJASRACが日本MMOを相手取り、ファイルローグでの音楽ファイルの交換停止を求める仮処分を東京地裁に申請。地裁は4月9日、ファイルローグのサーバーには音楽ソフトを違法にコピーしたファイルがユーザーから送信されていると判断。ユーザーはファイルローグを利用して違法コピーファイルを検索、交換でき、「MMOが違法ファイルを送信可能にしている」として、レコード会社側が指定した19曲のファイルを交換させることを禁止する仮処分を決定した。MMO側が19曲だけを抜き出して交換を停止することは不可能なため、実質的にサービスの停止を命じた。MMO側は「サービスの場を提供しているだけ。違法コピーは申し出てもらえれば、削除する」などと訴えたが、認められなかった。

MMOは仮処分を受けて、サービスの継続は困難と判断。4月16日にサービスを一時停止した。MMOに対しては仮処分を申請したのと同じレコード会社19社とJASRACがファイルローグのサービスで著作権を侵害されたとしてサービスの停止と約3億6000億円の損害賠償を求める訴訟を今年2月28日に起こした。この訴訟は現在も継続。早ければ来年1月、遅くとも3月か4月に判決が出る見込みだ。松田社長は取材に対して、新たなPtoPツールを開発していることを明らかにしたが、サービスを提供できるのはファイルローグに関する訴訟が終結してからで、松田社長は「判決がファイル交換サービスをどう判断するかによって新サービス内容を決める」としている。

規制と技術革新のイタチごっこに

WinMXに対してはパワーユーザーの摘発、ファイルローグに対してはサービス提供会社の提訴と、ファイル交換サービスは一見して規制が強まっているように思える。しかし、IT業界の常であるように規制と技術の革新はイタチごっこ。匿名性の高さを売りにした日本生まれのファイル交換ツール“Winny”が登場し、すでにユーザーの間で広く使われている。Winnyは中心となるサーバーを持たず、いわゆる“サービスの場”を提供するサービスではない。ユーザーそれぞれのクライアントPCがサービス全体の一部になっている。また、さまざまなクライアントパソコンを経由してファイルが転送されるために、だれがファイルをアップロードしたかや、ダウンロードしたユーザーの特定が難しいとされている。かといって、著作権保護団体や警察が著作権の侵害行為を黙って見ているとは考えられない。違法性があれば技術的な課題を乗り越えて、摘発するだろう。しかし、ユーザーは“ファイルはすべてタダ”という一度覚えた蜜の味は忘れない。また新たなツールが登場し、流行→停止という流れは変わることはない。

(麻河紀人)


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