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【IT事件簿】迷惑メールは決してなくならない!


2002年7月5日

携帯電話などに一方的に送りつけられる広告メールを規制する法律が7月1日施行された。メールで広告を出す事業者を対象にした改正特定商取引法と、メール送信業者が対象の特定電子メール送信適正化法。両法とも、メールの件名に"未承諾広告※"と明示し、会社名、住所、電話番号、メールアドレスの表示を義務付けた。 両法施行に合わせNTTドコモは7月2日、iモードで“未承諾広告※”と表示されたメールの受信を拒否する機能を、10月をめどに開始すると発表した。また、6月28日付新聞各紙の報道によるとNTTドコモは、あて先不明の広告メールを大量に送信されて通話料金が回収できなかったとして、東京都内のメール送信業者に約650万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

未承諾広告※と表示した広告メール
未承諾広告※と表示した広告メールはすでにあちこちで見られるようになっている

業者の巧妙化必至、"迷惑"なのはiモードの受信全文課金

1年余り前から社会問題化していたインターネット対応携帯電話への“迷惑メール”。2法の施行で、厳しい規制がかけられることになった。経済産業省は今年2月1日、特定商取引法の省令を改正し、一方的な広告メールの件名に「!広告!」と表示するよう義務付けた。さらに今回は一歩進めて、違反すると業務停止命令など行政処分の対象になり、従わない場合には懲役や罰金を科すことにした。

罰則は、改正特定商取引法は2年以下の懲役または300万円(法人は3億円)以下の罰金、特定電子メール送信適正化法は50万円以下の罰金という厳しさ。これまではアドレスを明記しない場合は「!連絡方法無!」と表示すればよかったが、今後は認めない。2法とも広告メールの受け取りを希望しない、と連絡したユーザーへの再送信を禁止。特定電子メール送信適正化法では、専用ソフトなどで作成した架空のアドレスあてに大量のメールを送信することも禁じている。

ここまで規制すれば、さすがに無差別に送信する迷惑な広告メールはなくなるだろう、というのが行政当局の考えだ。特に特定電子メール送信適正化法の条文には、規制する特定電子メールの意味を「自己または他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メール」と定義しているのをはじめ、やや難解な法律用語も多いが、こと細かに禁止する内容を記している。抜け道を探すのは容易ではないようにみえる。

とはいえ、営業には見えない巧妙なメールの場合はどうなるのか。2月に「!広告!」表示が義務付けられてからも、例えば女性らしきアドレスで「こんにちは」などの件名を付け、本文は「私に興味を持ったらメールをください」とか「このサイト面白いから見て」などといったメールが届いた。何人もに同じ内容で、だ。返信したりサイトを見てみると、アダルトビデオの通信販売だった、というわけ。見かけ上は個人間の私信交換となるこうしたケースにも、法規制は可能なのか。あるいは、アトランダムの女性名のアドレスに「メル友になりませんか」と送り付ける"ナンパメール"は、営業ではないから迷惑メールではないのか。ネット関連の新法律に付き物の、さまざまなケースでの疑問は残る。

広告だけが“迷惑メール”ではないはず

そもそも迷惑メールとは何が迷惑なのか。深夜早朝、仕事中を問わず勝手に送り付けられてくることが迷惑なのであって、広告だから迷惑、というわけではないはずだ。ユーザーにとっては広告だろうが、間違いメールだろうが、ナンパメールだろうが、どれも同じように迷惑なのだ。内閣府が今年3月28日に発表した迷惑メールの実態調査結果によると、知らない相手からの携帯電話あてのメール全般を迷惑、と感じる層が8割あった。迷惑と考える理由は、「欲しくもないメールをもらって受信料を払わなくてはならない」が最も多かった。半面、パソコンのメールでは迷惑と考える割合が携帯より低く、迷惑の理由も「個人情報が漏れていないか心配」が最多だった。

携帯とパソコンの決定的な違いは、料金とリアルタイム性にある。パソコンは定額の料金体系がほぼ定着し、受信も受け手側が自律的にできる。対して携帯は、リアルタイムにメールが送り付けられるうえ、メールの受信に料金がかかる。メール受信の料金に関して言えば、ドコモのiモード料金システムこそが、ユーザーにとって最大の迷惑なのだ。

メール受信での料金のかかり方は携帯電話会社によって異なる。iモードの場合はメールが送られてくると件名から本文まで一度に受信し、件名、本文など送られた文字の分量すべてに料金がかかる。ところが、auとツーカーのEZwebの場合は、まず件名と送信者だけを受信し、必要かどうかどうか判断して本文を受信することができる。これだと不要なメールの本文は受信しなくてもよく、本文に対して料金は不要。J-フォンのJ-SKYは、全角192文字まで受信が無料で、それ以上読みたいと思った時だけ有料で受信する仕組みだ。最新のJ-SKY端末では最初の192文字も有料(今年8月末までは無料)だが、iモードのように不要な受信メール全文に料金がかかる訳ではない。

こうして見てみると、もっとも料金のかかるのは、ドコモのいきなりの全文受信=課金システムだ。ドコモは、インターネットから送られてくるメールは発信者に課金できないため受信者側に料金を支払ってもらう、と自社広告などで説明してきた。昨年、迷惑メール問題が取り沙汰された時、迷惑メールの受信料でドコモが大もうけした、と報道された。実際ドコモの取締役は昨年7月、3ヵ月間で数十億円程度の収益を上げたと認めている。当時、広告メールの発信業者は「ドコモをもうけさせてやっているのは我々。感謝してもらいたいほどだ」とうそぶいていたが、この言葉は事実に他ならなかった。

とはいえ、迷惑メールが社会問題化してドコモへの批判が集まり始めると、さすがにドコモも座視できなくなり、ユーザー向けの対策を採った。自社のサーバーへの負荷も増大してきた。設定によるメール受信の拒否機能を次々に高度化させるとともに昨年8月、120円値下げもした(ドコモは一部「無料化」と言っていたが、ユーザーにしてみれば単純な値下げに過ぎない)。しかし、業者のほうが1枚も2枚も上手で、ドコモの対策をあざ笑うかのように、ユーザー心理を突いた広告メールを送り続けた。

業を煮やしたドコモが法的手段に訴えたのが昨年7月。あて先不明メールを含む大量のメール送信によって通信設備に支障が出て他のメールが届かない被害が出たといい、所有権侵害に当たるとして、送信業者に送信行為を止めるよう横浜地裁に仮処分申請した。地裁は10月、業者に送信行為を1年間禁じる命令を出した。この決定については、疑問の余地はない。たとえユーザー向けのポーズだとしても、納得できる申請であり、判断だろう。

ドコモの不可解な提訴理由

ところが、今回のドコモの提訴には疑問点もある。迷惑メールをストップさせることは良いとしても、損害賠償の理由がふるっている。あて先不明のメールを大量に送信されたことで、通信料が回収できなかったため、その分の料金650万円を払え、というのだ。ドコモのかねてからの主張である、インターネットから送られてくるメールは発信者に課金できないため受信者側に料金を支払ってもらう、がうまくいかなかったことが理由のようだ。iモードあてに発信させてやったけれど、受信者が実在しなかったから料金が徴収できなかった、だから発信者がカネを払え、これがこの提訴の趣旨。

誰でもあるケースとして、iモードユーザーにメールを出そうとして誤って実在しないアドレスに送ってしまった。そうすると発信者に料金が課せられることになるのだろうか。この提訴の背景にあるドコモの根本的な考え方は、あくまで受信者側全文課金というスタンスだ。いきなりの有料全文受信ではないauやJ-フォンだったら提訴は成り立たないだろう。ドコモが求めているのは、この業者が確実に送信していたら本来はユーザーが負担することになっていた金額だった、と考えると、どこか釈然としない。

もちろん今回はこの業者に悪意があった、との判断から提訴になった。業者は、多数のメールを送信する業者向けにドコモが3月に始めた特定接続サービスを悪用したという。このサービスは、iモードユーザーへのメール送信者用にインターネットからの専用接続口を確保する内容で、有料。速く確実にメール送信ができるシステムだ。

提訴には疑問もあるが、ドコモが法施行翌日に発表した「未承諾広告※」拒否機能の10月開始は評価できる。au、J-フォンも追従するとみられる。この機能を利用すれば、10月からは不要な広告メールを受信することはなくなる。だが逆に考えると、ドコモをはじめ各携帯電話会社が「未承諾広告※」拒否機能を導入したら、法を守って広告メールを送る業者はいなくなる。何せ法律通りに件名を「未承諾広告※」としていたら、誰にも受信してもらえないのだから。

となると、これまでにもあったように私信を装ったメールだったり、さらに巧妙化した形で迷惑なメールが送られてくることになるだろう。そしてiモードユーザーは全文に対して受信料を取られる。法律が整備され、携帯電話会社が法的手段に訴えても、どんな機能を導入をしても、迷惑メールはなくならない。たとえ減ったとしても、いわゆる"ワン切り"をはじめとした新手の携帯相手の広告が出現してくるだろう。法規制で追い込まれた業者が絞る悪知恵とドコモをはじめとした携帯電話会社、行政当局とのイタチごっこは、まだまだ続く。

(麻河紀人)


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