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インターネットの自由と“広告”は両立するか?


2002年12月12日

これは企業のための広告なのか? それともユーザーのためを考えた良質な情報なのか?

オーバーチュア(株)が、日本でのサービスをいよいよスタートした。インターネットで人々が情報を得る手段としては、いまや唯一無比と言っていいほどまでに定着した検索エンジン。その検索エンジンと、インターネット広告を合体させたのが同社のスポンサードサーチと呼ばれるサービスだ。検索エンジンを一般のユーザーが利用する際に入力するキーワードを広告主に販売し、特定のキーワードを検索した際にその広告主のサイトが優先的に表示されるようにした仕組みである。オーバーチュアはgoo、インフォシーク、ライコス・ジャパン、MSN、ヤフー(Yahoo!)と提携しており、日本の検索エンジン利用者の約87%をカバーするという。

たとえば、ある自動車ディーラーが“自動車”と“販売”というキーワードの組み合わせをオーバーチュアから購入したとする。すると一般ユーザーがこの2語でオーバーチュアの提携検索エンジンを利用するたび、その自動車ディーラーのウェブサイトのURLを検索結果のトップに表示するようになる。“Sponsored Search by Overture”という文字も現われ、広告であることは明記される。この種のサービスは“広告型検索”“広告エンジン”といった通称もある。米オーバーチュアが最初に開発し、あっという間に米国のインターネットの広告業界を席巻。いまではグーグルやルックスマートなども追随し、同様のサービスを提供するようになっている。

オーバーチュアは日本の広告業界、検索ポータル業界でも大きな注目を集めている。その背景にはもちろん、ネット広告というビジネスが行き詰まってしまい、有効な打開策を見いだせないという業界の問題が横たわっている。

インターネット広告市場は1990年代後半に立ち上がり、2000年までは毎年倍増し続けてきた。だが01年、その成長はあっけなく失速する。昨年のネット広告費は国内市場で約735億円(電通調べ)。前年と比較し、約24.6%の増加にとどまった。最も大きな原因は、広告効果が薄れてしまったことだ。つまり、バナー広告を誰もクリックしなくなってしまったのである。こうした状況は米国でも同様で、たとえばアメリカ・オンライン(AOL)は12月3日の投資家向け説明会で、広告収入が来年は40〜50%減少するという衝撃的な数字を提示し、業界を驚愕させている。

ネット広告業界はメール広告や悪名高いポップアップ広告、あるいはブロードバンド時代をにらんだストリーミングの映像広告まで、さまざまな媒体に活路を求めている。だが結果はあまりかんばしくない。たとえばメール広告は、市場や媒体は増えてはいるものの、単価は大きく下落。11月25日付の日本経済新聞朝刊によると、「この1年で半値近くになった」というから驚かされる。

鈴木茂人社長
オーバーチュアの鈴木茂人社長

オーバーチュアはそんな逆風の中にあって登場してきた。
同社日本法人の鈴木茂人社長は「広告代理店――特に独立系の広告代理店からの期待感は相当なものがある。オーバーチュアのために専従担当2人を置き、わが社に賭けていただいているのではないかという代理店もある」と証言する。

確かに、広告代理店的な視点で見ても、オーバーチュアのモデルの秀逸さは明らかだ。広告であることを明確に表示したバナー広告やポップアップ広告をユーザーの誰もクリックしなくなってしまったのは、そのクリックという行為に何のモチベーションもインセンティブも存在しないからだ。必要な情報を探してネットを回っている時に、その“必要な情報”とは何の関係もなく、しかも宣伝であることが明々白々なバナーをクリックするという行為はある意味、ただのムダでしかない。それに比べ、オーバーチュアのスポンサードサーチの検索結果は、“ユーザーの目的”と“広告の目的”がうまく一致している。ユーザー側は、自然な行動として広告をクリックするという行為を選び取ることができるのだ。

しかしそうなると、もうひとつの問題が浮かび上がってくる。

それは、水と油とも言えそうな“広告”と“情報の自由”のマッチングが、果たしてユーザー側に受け入れられるのかどうかということだ。検索エンジンという存在はそもそも、大手企業やマスメディアの提供する情報と個人が発信する情報とを完璧にシームレスに扱い、その結果、ネットにおける情報の自由の象徴とも言える存在になっている。それに対して、インターネット広告はいわば商業主義の権化ともいえるものではないか。

実際、米国の連邦取引委員会(FTC)は今年6月、検索ポータルやオーバーチュアを含む広告エンジンの提供会社数社に、(1)広告リンクであることを表示すること(2)広告型検索と通常の検索結果が確実に区別できるようにすること――などを明記した警告書を送付している。FTCがこうした警告書を出したのは、米国内で大きな発言権を持つ消費者団体、コマーシャル・アラート(Commercial Alert)がFTCに調査を要請していたことがあったという。

オーバーチュア側は、この疑問にどう答えるか。
同社の鈴木社長は「われわれのスポンサードサーチの検索結果は広告主の立場ではなく、あくまでもユーザーの視点に立っている。いかにしてモノを売るかという企業の視点ではなく、いかにユーザーに喜んでもらえるかという視点。われわれのスポンサードサーチを利用した結果、非常に良い情報を得ることができたと喜んでもらえるかどうかということだ」と説明する。

同社のスポンサードサーチは、3段階の審査を経る仕組みになっているという。
まず第1に、顧客企業が怪しい企業、非合法な企業ではないかという審査。
第2に、その企業が希望するキーワードについて、その企業のビジネスときちんとマッチしているかどうかという審査。たとえば“BMW”というキーワードをダイムラーベンツ社が希望しても審査は通らないわけだ。思い返せば1990年代後半の検索エンジン黎明期、SEO(検索エンジン最適化)の怪しいテクニックが横行し、どんなキーワードを入力しても必ず検索結果のトップに、特定のオンラインカジノやポルノのサイトが表示されてしまうという状況に陥ってしまったことがあった。こうした検索結果が蔓延すると、エンジンに対する信頼感は著しく損なわれるのは確かに間違いない。

そして第3に、検索結果に表示する文章とリンク先のURLが適正かどうかというチェック。オーバーチュアは専従の“エディターチーム”という部署を抱えており、ここに所属する編集者たちが顧客企業と調整し、URLの紹介文を書き上げるという。同社がその検索結果の良質さをアピールする際、必ず引き合いに出すのがこのエディターチームの仕事だ。鈴木社長は「エディターチームのスタッフは、米国の本社で3ヵ月の研修を受けており、非常に能力も高い」と誇らしげに言う。“世界最大の”“絶対に”といった賛辞の言葉は、広告主が提案してきても紹介文から外すという。

ライコスで“自動車”“販売”のキーワードを使って検索した結果
ライコスで“自動車”“販売”のキーワードを使って検索した結果。トップにオーバーチュアのスポンサードサーチの結果が表示されている

実際、スポンサードサーチサービスの結果を見ると、そのリーダビリティーの高さは明らかだ。たとえばスポンサードサーチで“自動車”というキーワードを引くと最初にランキングされるカーポイント(株)の“カービュー”というサイト。このサイトを一般的なロボット型検索エンジンで“カービュー”というキーワードで検索すると、次のような検索結果が表示される。

ブラウザ対応
ご使用されているWebブラウザでは、カービュー・サイトが正しく表示されない場合
があります。 カービュー・サイトにおけるすべてのページは、Microsoft Internet Explorer 4 ...

これでは何のサイトか、さっぱりわからない。これに対して、オーバーチュアのスポンサードサーチでは、こんな感じだ。

カービューで新車見積もり - 新車見積もりサービスを提供。登録により最寄りの提携自動車販売店、ディーラーより新車の見積もりを取り寄せることが可能。そのほか希望の車の詳細情報や中古車の買取情報 ...

この2つの検索結果からは、ロボットの限界と人間の手による編集の重要性が浮き彫りになっている。人間の手によって編集されたオーバーチュアの検索結果は、確かに圧倒的に読みやすい。鈴木社長に「ユーザーはこの検索結果を広告として認識しているのでしょうか」と問うと、「大半のユーザーは、特に広告としては見ていないようだ。ただ広告かどうかを知っているかと聞くと、ユーザーからは『広告だというのはわかっているけれど、いい検索結果だからいいんじゃない?』という反応のようだ」という微妙な答が返ってきた。広告のように見えないが、しかし広告のような広告でないような……スポンサードサーチはきわめて絶妙な落としどころを狙っているということだろう。

とはいえ、この記事の見出しに掲げたように、オーバーチュアのモデルのこうしたユーザビリティーと、情報の自由が両立するかどうかはまだ何とも言えない。エディターの手を経た広告型検索結果が、ユーザーにとって使いやすいのは事実。しかし“使いやすさ”と“ネットの情報の自由”は、決して同意語ではない。ユーザーの使いやすいものが、情報の自由を体現するとは言えない。いや、それどころか過去の歴史を見れば、使いやすい便利なものが結果的にユーザーの自由の幅を狭めていったというケースは枚挙に暇がないといっていい。

このオーバーチュアモデルは、果たしてインターネットユーザーの世界をどう変えていくのだろうか。吉と出るか凶と出るか、いずれにせよこれからのネットのあり方に大きな影響を与えるのは間違いなさそうだ。

(編集部 佐々木俊尚)


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