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インターネットを監視から守る 燎原のように広がる“反監視”の動き


2002年11月21日

“言論の自由を守る”のを目的としたオープンソースのネットワーク、Freenetが2001年8月以来1年4ヵ月ぶりのバージョンアップを果たした。

FreenetはP2P(ピア・トゥー・ピア)をベースにしているが、NapsterやKazaa、Gnutella、WinMXなどといった一連のファイル交換目的のソフトとは様相がかなり異なる。どちらかといえばワールドワイドウェブ(WWW)に近い存在といえるかもしれない。ユーザーはウェブページを投稿して表示させたり、ファイルを保存したりすることができる。ネットワークは徹底的に分散されており、Freenet上に見えているファイルは物理的にはどこに保存されているのかが特定されない仕組みになっている。参加するユーザーは自分のパソコンのハードディスクの一部を提供するよう求められ、そしてFreenet上のさまざまな情報やデータは参加者それぞれのハードディスクに分散して保存されているのだ。データは暗号化されているため、ユーザーにも自分のハードディスクにどんな情報が保存されているのかわからない。データを削除しようとすると、他の場所に自動的にコピーされる。完全な削除は難しい。

Freenetのウェブサイト
Freenetのウェブサイト。ウェブには日本語版もある

このFreenetのプロジェクトを立ち上げたのは、25歳のアイルランド人、イアン・クラーク(Ian Clarke)氏。1999年、彼がイギリスのエディンバラ大に在学中に書いた仕様書がすべての始まりとなった。オーストラリアが施行したインターネット検閲法に憤りを感じたのが、プロジェクトのきっかけだったという。プロジェクトは、世界中に散らばった5人のキーパーソンによって運営されている。ほかに20人から30人がボランティアでプロジェクトに関わっているという。

こうしたソフトの登場で、政府や司法当局、著作権保護団体などからさまざまな批判が出ている。「テロ活動を支援するものだ」「警察の盗聴操作などを妨げ、組織犯罪を助長する」「Napsterのように違法な音楽ファイル、児童ポルノなどを流通させる」――。しかしクラーク氏はロイター通信などの取材に「言論の自由を守るということは、他の人々の言論の権利も守らなければならないということだ。もしあなたがその意見に反対だったり、嫌悪感を持っているとしても」とコメントしている。

クラーク氏が考えるFreenetの利用法は、中国や中東の一部など圧政が続く地域で人々が匿名を保ったまま安全な連絡手段を使えるようにする、というものだ。しかし監視社会化はこうした国家だけでなく、米国や欧州、日本などでも急激に進んでいる。衛星通信を使った音声通話を傍受するエシュロンや、インターネットの電子メールなどの内容をフィルタリングするカーニボアなどがその代表的存在だ。しかもその傾向は昨年の同時多発テロ以降、急激に高まりつつある。

Freenetは、インターネット世界から徐々に自由が失われていくそうした流れを、逆転させようというものだ。「政府の反テロ政策はFreenetと対立するものだ。この種の公権力に対して、Freenetは市民にとって有効な自衛策となるはず」とクラーク氏はコメントしている。

“反監視”をテーマとした同様の動きは、インターネットのあちこちで燎原の火のように広がりつつある。

ハクティビズモ(Hacktivismo)というハッカーグループは今年7月、『Camera/Shy(カメラ嫌い)』という名前のソフトを発表した。JPEGやGIFなどの画像ファイルにファイルを隠すというステガノグラフィーの技術を使ったプログラムだ。

『Camera/Shy』の画面
ハクティビズモのステガノグラフィーソフト『Camera/Shy』の画面

ステガノグラフィーは日本語では“電子あぶり出し”などとも訳されている。画像の各ピクセルのデータのうち最下位ビット(LSB)を利用し、ここに数値を放り込んでいくことで、ある程度の大きさのデータを画像ファイル内にこっそり保存してしまうというものだ。VGAサイズの256色画像なら、中に約300KB程度のデータを隠すことができるという。

ステガノグラフィーは、昨年の9.11同時多発テロを起こしたとされるオサマ・ビンラディン氏のテロ組織“アル・カイーダ”が連絡用に利用していたと言われている。事件の1年半前の2000年3月には、米議会上院外交委員会でCIA幹部が「ステガノグラフィーの技術がアル・カイーダのテロ活動を支えている」と証言しているのだ。同時多発テロ発生後、この問題は再び米国内で急浮上し、実際にさまざまなウェブ上の画像から隠されたメッセージを探し出す試みをする研究者まで現れた。

ミシガン大学のニールス・プロボス(Niels Provos)氏もそのひとり。JPEG画像を自動収集するウェブ・クローラー(Web Crawler)、それにステガノグラフィーで作成されたコンテンツを自動検知するステグデテクト(Stegdetect)の2つのプログラムを作り、オークションサイトのeBayにあった商品の画像約200万点を調べた。しかしステガノグラフィーを利用した形跡は見つからなかったという。もっとも世界中のウェブの画像は膨大な数に上っているから、これだけで「ステガノグラフィーは使われていなかった」と結論づけるのは早計かもしれない。読売新聞は昨年11月20日付の“テロ組織アル・カーイダ 画像の中に秘密情報埋め込み、電子あぶり出し利用か”と題する記事で、元CIA幹部の証言として「アダルト系サイトのポルノ画像に埋め込まれた指令もあった。アダルトサイトが悪用されたのは、(1)この種のサイトは無数にあり、当局も探しきれない(2)イスラム原理主義者は女性の体の露出を禁じており、こうしたサイトとは無縁という固定観念を逆手に取った――という理由からではないか」とする分析を紹介している。

Camera/Shyを作ったHacktivismoは、悪名高いハッキングツール『Back Orifice』を開発した“Cult of the Dead Cow”のメンバーを中心に作られたグループ。Hacktivismoは、ハッカーと反体制運動(Activism)をかけ合わせた造語、ハクティビズム(Hacktivism)から取ったものだ。Camera/Shyはわずか1.29MBのプログラムで、パソコンのハードディスク上に痕跡を残さずにウェブブラウジングができるという機能もある。中国など、国内のインターネット利用に強い規制をかけている国で反体制活動家が利用することを念頭に置いたものだ。

実際、Camera/Shyのメニューには“Dedication(献辞)”という項目があり、「王若望の追憶に捧げる――彼は勇気をわれわれに与え、われわれの足下を明るく照らしてくれた」と書かれている。王若望氏は、昨年12月にニューヨークで胃がんのために死亡した中国反体制運動の代表的人物だ。

反テロリズムを標榜して市民への監視を強める各国政府と、反監視を旗頭に運動を続けるハクティビストたち。この戦いはこれからどう進んでいくのだろうか。

(編集部 佐々木俊尚)


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