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掲示板荒らしに対処するのは“まごころ”で


2002年7月29日

「おまえら、裏では悪いことやってんだろ!」と男性は怒鳴った

テーブルの上で電話が鳴る。驚いたように受話器を取る男性。電話線の向こうから、脳天気なまでに明るい男の声が飛び込んでくる。

「初めまして。インターネットのOKWebのコミュニティをやってるカネモトといいます」
「えっ。何の用?」
「あの、実はお客さまのログインを停止させていただこうかと思ってまして。それでその前にちょっとお話をさせていただこうと思って電話しました」
「ログイン停止はないだろ……。で、話って何なの」
「まず、なんで私たちがこういうことをやっているかっていう話をさせてください」
「ふーん?」
「これまでに何度か、お客さまとうちのサポートとの間でメールをやりとりさせていただきましたよね。その中で、うちが顧客データをどこかに売ってビジネスにしているんじゃないかというご指摘がありました」
「だってやってんだろ? じゃなきゃこんなコミュニティが成立するわけがない」
「そういうことはいっさいやってません、ってことをまずご理解いただきたいなと思っているんです。ひょっとしたら将来は、商売のためにやらなきゃいけない時がくるかもしれません。でも、今はいっさいないんです」
「じゃあ何のために、インターネットでこんなコミュニティをやってんだよ」
「それを説明させてください。まず最初に、ぼくはまじめに世界平和のことを考えておるんですよ……」

オーケイウェブの兼元謙任社長
オーケイウェブの兼元謙任社長

“教えて”“答える”の頭文字から名付けられたインターネットの掲示板、OKWeb。(株)オーケイウェブが運営するこのコミュニティーの規模は、月間1500万ページビュー、月間書き込み数8万件、会員数10万人。パソコンから学問、ビジネス、趣味、日常生活まで数百のジャンルに分かれ、さまざまな質問とそれに対する回答を軸にし、独特の掲示板システムを作り上げている。そして規模が大きくなれば、当然のごとくノイズや“荒らし”も等比級数的に増えてくる。“荒らし”というのはご存じのように、他の参加者や運営者への攻撃や誹謗中傷、差別的な発言などを書き込み、掲示板を荒らす行為のことだ。何が問題で、何が解決策かをやりとりするOKWebのような掲示板は、普通の掲示板にくらべれば荒れることは少ない。管理はしやすく、質のよい情報を維持できるメリットがある。しかしそうした中でも、自己主張をするユーザーは少数ながら存在する。それはネットコミュニティーのある種の宿命のようなものかもしれない。

では、そんな“荒らし”な人たちに、掲示板コミュニティーはどう対処するか。OKWebではなんと、代表者がいきなり電話をかけてしまうのだ。時に応じては、電話をかけたうえに「会いませんか?」と持ちかけるときもあるという。バーチャルな空間に慣れきっていたネットの住人たちは、突然のリアル世界の闖入にとまどい、うろたえる。

「それで、OKWebとお客さまの間でこういうことになってしまったのは、もちろんぼくらの不手際もあると思うんです。コミュニティに参加しているすべてのかたが気持ちよくやりとりをしていただけるようにしたいんだけど、今回、こんないやな気持ちにさせてしまったのは、ものすごく申し訳なく思ってるんです」
「申し訳ないと思ってるんだったら、なんでログイン停止なんかするんだ? だいたいおまえんとこはなあ、そんなことやっててホントに世の中が変わると思ってるんか?」
「ええ、ホントに思ってます。信じてください」
「そう思ってるんやったら、なんでオレみたいなOKWebのことを愛してる人間のログインを停止するんだ。もっとひどい書き込みしてるヤツはいっぱいいるだろ。なんでそいつらは野放しにしておいて、オレにばかり目をつける? アンフェアじゃないか」
「お客さまがOKWebを愛していただいているのは、ほんまによくわかります。うれしくてたまらないです。ぼくらも、そういうコミュニティを一緒に作っていきたいと思ってるんです」

もちろん電話をかけるまでには、いくつかのセーフティーネットが張られている。完全匿名ではないOKWebは、メールアドレスと名前、住所、電話番号を使ったごく簡単な個人認証を採っている。新規登録時にこれらの情報を入力してもらい、会員登録通知を郵送する。届かなければ、偽の情報としてIDが削除される仕組みだ。さらに、オーケイウェブではボランティアと社員が共同して膨大な数の書き込みを人力でひたすらチェック。不適切な書き込みは随時削除している。しかしそれでもやめない参加者もいる。サポートからのメールにも、攻撃的な反論メールを返してくる。

そういった行為が続くと、兼元謙任(かねもと・かねとう)社長の電話の出番がやってくる。2000年1月に掲示板をスタートして、電話で話したのはこれまでに8人。ひとりが女性で、残りは全員男性。いちばん長い電話は、4時間だった。

兼元社長は言う。「掲示板の書き込みもメールもきつい口調で、実際に電話したもやっぱりメチャメチャきつい人だった、というのはひとりだけ。あとは皆さん、掲示板やメールでの戦闘的な雰囲気とはだいぶ違って、やさしい感じの人が多かった。でもやっぱり非常に論理的というか、自分の名前を名乗ってでも論理的な誤りを指摘したいと思っている人たち。ぼくらがいちばん痛いと思っているところを、痛烈な批判とちゃんとした論法で突いてくる。単純な乱暴者ではなく、知的でものごとがよくわかっている人たちだった」

「どうしてわざわざ電話を?」と聞いてみると、兼元社長は笑顔で言った。「そりゃあもちろん、まごころです。こころがあれば、必ず気持ちは通じると信じています」。あくまで真摯なのだ。


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